農業への遮熱の取り組み

【農業用遮熱材開発の背景】

 50年に一度の豪雨とか気象台始まって以来など、地球温暖化の影響と思われる異常気象現象が当たり前の様に起こっています。この結果、屋外で栽培する農産物は真っ先にその影響を受け、品質の低下や供給量不足そして価格の高騰と私たちの生活に大きな影響が及んでいます。
 又、地球温暖化の影響で、畑作中心だった北海道がおいしいお米の産地になったり、千葉県でサトウキビの栽培ができたり等、昔では考えられない様な生産地の移動も現実化してきています。
 このような問題を解決する為、農産物が気候に関係なく何処でも安定して大量に生産出来る様にする事は多くの研究機関で研究されています。特に近年、建物内で生産する植物工場等も増え、安定した生産能力を発揮しつつあります。しかし、建物建設や室内の空調設備等に大きな投資が必要であること、更に冷暖房の維持費も大きく破産に追い込まれた企業もあるようです。この様な状況から鑑みると農産物は商品価格が安いので、設備投資や維持費が大きいと採算ベースに乗り難いという問題が見えてきます。
 以前、キノコハウスで遮熱工事をし、生産性25%向上、空調費50%削減という実績を出した事があります。しかし、当時は遮熱工事費用が高かったこともあり、その後は思うような普及には至っていません。
 そこで、前記の様な本格的な植物工場まではいかないまでも、農家が現在使用しているビニールハウスに遮熱性能を付加させ、しかも費用が安く生産性も向上する簡易型農業用遮熱ハウスを提案するものです。

【ビニールハウスの問題点】

 低コストで農産物の生産性を上げたり、生産時期をずらしたりするには、ビニールハウスが多くされています。その理由は、ビニールは太陽光を良く透過して植物の光合成を促進する事や、太陽光が土壌や植物に照射されることにより発生する熱を保温、作物の栽培期間を長くすることができる事にあります。
 しかし、地球温暖化に伴い夏場のビニールハウス内の温度は保温性があるが故大きく上昇、光合成は十分であるものの野菜や果物が過乾燥状態となり、萎れ或いは生育不足が起こり生産性の低下は否めません。
 又、冬あるいは夜、ビニールハウスは太陽光を透過し易いが故に、逆に熱の放射量も多く十分な保温性能が確保できていない問題もあります。

【農業への遮熱材使用の考え方】

 本システムは、ビニールハウスと遮熱材の性能を組み合わせる事により、農産物の生産性の向上や設備の省エネルギーを目指そうとするものです。
 野菜や果物が正常に生育するには、光、温度、水、二酸化炭素、養分が必要ですが、本システムでは特に光と温度に着目して遮熱材の使い方を検討します。
 さて、太陽から地球に照射されている太陽光所謂放射エネルギーは、その移動形態から伝導熱、対流熱、輻射熱に分類されています。又、輻射熱は電磁波とも言われ、その波長からガンマ線、紫外線、可視光線、赤外線、電波に区分されています。
 この内、光合成や生育に寄与しているのが人間の目に見える可視光線で、温度上昇に寄与しているのが赤外線です。
 又、輻射熱を阻止するには遮熱材が効果的であることは周知の事実ですが、阻止量が多いと温度阻止は十分であるものの光合成は満たせず、阻止量が少ないと光合成は満たされるが温度は上昇しすぎるという問題があります。
 太陽光をどのくらい必要かは対象植物により異なりますが、本システムは既存のビニールハウスの外側からカバーする事ができ、この調整が非常に簡単に出来ます。勿論、夏の暑さ対策にも冬場の寒さ対策にも、遮熱カバーの位置や大きさの変更のみで目的が達成できますので、使い勝手も良いと思います。
 夏に、ビニールの代替品として使用する事も出来ます。但し、この場合太陽光は取り込めませんので、蛍光灯やLED等の使用で対応します。太陽光と人口光との違いは、太陽光は全ての波長を出しているのに対し、人口光は特定の波長を集中的に出しているので放出されている波長が植物に有効な光かを把握する必要があります。
 赤や青色のLEDは、光合成を促進する効果が大きく植物工場でも多く採用されています。又、日照不足の地域ではいちご、トマト、カーネーション等に赤色LEDが使用されている様です。一方、和歌山県では、日照時間を増やすため、太陽光と人口光を組み合わせたカスミソウの電照栽培が有名です。
 今回は、簡易の遮熱ハウスの提案ですが、遮熱材の使い方次第では効果的な植物栽培が可能ではと期待しています。